「小さい政府」、「民営化」、「規制緩和」をめざした行政改革は、80年代における日本の最も重要な政治争点であったが、それは、戦後における経済的自由主義と社会民主主義とのイデオロギ-的な対立の循環的サイクルの一つと捉えることができる。ところが、この行改イデオロギ-と実施の実態との間には、重大なズレがあり、実際には自由主義イデオロギ-の浸透によって、コ-ポラティスト的な構造が一層進行しているのではないか、というのが本研究の出発点であった。こうした観点から、本年度ではまず、理論的分析として、ピ-タ-・カッシェンステインのモデルの再検討を行った。彼のモデルでは、自由主義イデオロギ-とコ-ポラティスト的実態との結びつきがヨ-ロッパの小国においてもしばしば見られることを指摘しており、日本との比較の上で興味深い洞察を与えると判断したからである。そして事実、このモデルによって、昨年実態調査を行った民営化の過程におけるNTT・全電通の労使関係の変化が、適切に解釈できることが明らかになった。他方、本年度の研究対象であった予算過程における各官庁、自民党各政務調査会部会、利益団体間のコ-ポラティスト的協調体制の一層の展開も同様の枠組みで理解できることが明らかになった。なお、本年度、規制緩和、民営化の一環としての建設省の土地利用政策が、土地の価格の高騰を招き、それが「土地臨調」を誕生させた過程を分析した。この過程は、行政改革の一環をなすものであるが、理論的にも興味深い研究課題を提供している。それを一つのきっかけとして、労働組合の発言力が強化され、社会民主主義イデオロギ-の再生につながったが、同時に、連合のコ-ポラティスト的参加に一層の拍車がかかったからである。今後は、引き続き、行政改革の副産物たるこの土地問題の研究を以上の枠組みによって検討する作業を続けたい。
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