戦後福祉国家の再検討とコンセンサス政治のの否定という基本的姿勢のもとで、イギリス公務員制度の改革は次の三つのテ-マを中心に展開されていることを改めて確認した。(1)公共支出削減の1部としての公務員制度の規模とコストの削減及びこれと関連した公務員の「非特権化」の推進。(2)非能率と無駄の排除を出発点とするマネジメント改善は、レイナ-検査、財務管理イニシアティヴを経て、イブス報告による公務員制度の大規模な構造改革にまで発展していること。(3)また公務員が大臣によって設定された目的を情熱的に、有効に達成するためには、公務員を大臣の有効な統制のもとにおく必要があるという政治統制強化の問題も重要な論議の焦点となっていることである。(2)の行政管理改善の動向と問題点については、今年度もさらに現地の文献の収集につとめ、一層掘り下げた分析を試みた。その成果については(最後年度のまとめ)で述べたい。ここでは(2)のテ-マ、すなわち「公務員と大臣の関係」「高級公務員の昇進に対するサッチャ-首相の介入」といった問題について、大臣の下院への責任、公務員の伝統的な中立性、匿名性との関連でその問題点の解明の一端を述べたい。高級公務員の昇進への介入については王立行政研究所の調査で述べられているように「任命、昇進が特定の政治的イデオロギ-とか政治的目的への任命候補者の支持またはコミットに基づいて行われているとは考えられない」という指摘を一応肯定することができよう。しかしそこには第1に「若い公務員が大臣が聞きたいと思う助言のみを行うことになり易い」という危険。また第2に政権交代に際して、「われわれの仲間」というテストを適用する危険がくり返されると指摘することもできよう。上述の行政管理改革を十分に実施するための前提としても、公務員の立憲上の役割についての新しい解釈が要求されているということが改めて認識された重要な知見である。
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