本研究は時宜に適したものであったと同時に、はなはだ困難なものでもあった。というのはちょうど現在多数の社会主義諸国が所有構造自体と「所有(特に国有)と経営の関係」の変革に着手し、日々新たな事象が誕生しているからである。この点で社会主義諸国の中で先端を歩んでいるのはハンガリーと中国である。前者は新しい「会社法」を決定した。これは西側の法制を参考にしたもので、私的企業経営を大巾に自由化した。同国の党書記長は国有企業の比重は半分でよいと言明するにいたった。また同国の基朝企業を除く国有企業の株式の法人間取引が始まったが、国家の所有権と経営権の分離についての具体化はまだである。 中国では所有権と経営権の分離の方向での大中規模国有企業改革が経済改革の核心とされているが、その際に目下は請負制普及に重点をおいてそれ以上を語らない派と、さらに株式制導入にまで突き進むことを主張する派の間に論争がある。 これらの国を先頭に多数の社会主義諸国が国有セクターの比重削減と国家の所有権能の縮小に取り組み、混合経済化の方向にさらに一段と踏み込みつつある。ソ連の現政権がこうした方向に基本的支持を与えていることが改革派の大きな支えとなっている。 かかる事態は、社会主義経済すなわち「労働に応じた分配」を社会経済原理上のスローガンとする経済体制が商品経済でしかありえないことの反映である(詳細は『社会主義経済研究』11号青木論文1988参照)。そのために今後も、国有・国営(国家統制)から複合所有・多発経営管理への移行が継続されるだろう。しかしそのことは元来のマルクス主義的「労働に応じた分配」イデオロギーとは異なる社会経済体制をもたらすことになる。概略以上のような暫定的知見を得た。今後さらに検討を行う予定である。
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