この研究は、ゲームの理論を基礎に捉えて寡占産業の成果を厚生経済学の観点から分析し、競争政策の新たな基礎を構築することを目的とする。このような寡占産業の厚生経済学的研究は、ごく最近端緒についた理論的産業組織論のフロンティアであって、われわれはこの分野への体系的な貢献を意図している。幸い第1年度の研究は順調に進行し、以下の諸点に関して新たな知見を得ることができた。 (1)規模の経済性を特徴とする寡占産業では、生産の技術的効率性と資源配分の効率性との感に二律背反が発生する。寡占産業内の企業数が少ないほど企業は規模の経済性を享受でき、生産の技術的効率性は高まるが、企業数ガ少なければ、価格は限界費用を上回って資源配分の非効率性が生れてしまうのである。われわれは、緩やかな仮定のもとに前者の効果は後者の効果を凌駕し、自由参入のもとでの均衡企業数よりも少ない企業数を維持すれぱ、経済厚生の観点から寡占産業成果を改善できることを発見した。さらに、この「過剰参入定理」は一般均衡の枠組みにおいても成立することを論証した。 (2)次にわれわれは、2段階ゲームの枠組みを適用して、他に先駆けた新技術導入により費用を削減しようとする寡占企業間の戦略的行動を厚生経済学的に分析し、競争企業の数がある臨界水準を越えれば新技術への投資は社会的に過剰になることを論証した。 (3)われわれはさらに、このような理論的結果が企業の組織形態とどのような係わりをもつかを解明するため、利潤最大化企業の他に利潤シェア型企業に対して基本理論の拡張を試みた。 次年度は、これらの基礎的成果を英文の著書に纏め、また電気通信と銀行・流通の各産業に即して、その競争政策に対する含意を明らかにする計画である。
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