本年度は、この研究プロジェクトの最終年度なので、「昭和64年度の研究計画」として提出した3つの課題について、研究成果の取纏めを行った。 第1に、寡占的経済における競争と経済厚生に関わりに関する理論的研究を、4つの論文に取纏めた。論文1(Oligopolistic Competition and Economic Welfare:A General Equilibrium Analysis of Entry Regulation and Tax-Subsidy Schemes)は、このプロジェクトの根幹をなす私の「過剰参入定理」を一般均衡の枠組みへと拡張するとともに、寡占的経済において経済厚生を改善できる租税と補助金の体系を理論的に設計することを行うものである。論文2(Strategic Cost-Reduction Investment and Economic Welfare)は、費用削減的R&D投資が経済厚生に及ぼす効果を2段階ゲ-ムの部分ゲ-ム完全均衡の概念を適用して理論的に検討し、産業内の企業数がある程度多ければ、R&D水準は社会的に過剰になることを論証したものである。論文3(Cooperative and Non-cooperative R&D in Oligopoly with Spillovers)は、論文2と本質的に同じ問題を、R&Dの成果が他の企業にも漏洩する状況を考えて再考察するとともに、共同組合方式による技術開発の効果を厚生経済学的に検討したものである。最後に、論文4(戦略的な品質選択と経済厚生)は、論文2の設定を製品差別化を許す枠組みに改め、品質の選択へのコミットメントの厚生上の意義を明らかにしている。 第2に、寡占的経済における情報の役割に関しては、論文5(Strategic Information Revelation)が近刊予定になっている。 第3に、民営化と規制緩和に関しては、日本の電気通信産業と流通業を例にとって、理論に立脚する批判的提言を2つの論文に纏めた。すなわち、論文6(電気通信事業における競争と規制)は、日本のテレコム改革に対する批判的検討を与え、論文7(日本の流通規制:大店法システムを中心として)は日米構造協議の一つの焦点でもある日本の流通規制に対する批判的評価を与えている。 本プロジェクトに関する研究は今も継続中であり、近い将来には銀行業にたいする規制と経済厚生、生命保険産業における規制と経済厚生に関する論文が完成する予定である。
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