まったく新しい研究であるから、文献・資料の調査から始めなければならなかった。まず、ジェイムズ・バラ、ジェイムズ・ウイルスン、ジョン・プレイフェア、ジョン・レスリイ、ジェイムズ・ミルン、トマス・チャーマーズ、ジョン・キャンベル、トマス・アースキン、ヘンリィ・アースキンなどの著作の目録を作製し、一橋大学、京都大学など、社会思想史上の古典を多くもっている大学で所蔵状況を調査した。また、古書、マイクロフィルムなどの形で以上にかんする文献・資料の一部を入手した。また、私が在外研究員としてロンドンおよびエディンバラに滞在していたときに入てしたマイクロフィルム資料の関連部分をマイクロゼロックスで打ち出し、読みやすい形にすることができた。 以上にあげた人物のうち、とくに今年度は、私の年来の関心であるラディカルズとの関連で、ジェイムズ・バラとトマス・チャーマーズに力点をおいて文献・資料を集め、一部分析に着手した。そのなかで、私が予想していたとおり、バラが18世紀後半のラディカルズの運動に大きな影響を与えていたことを確認できた。チャーマーズのばあいは、かれは、マルクスによって、「狂信的なマルサス主義者」といわれ、保守的人物というイメージが強かったのであるが、実は、ウイリアム・ゴドウインの影響をうけていたという意外な事実が判明した。チャーマーズの研究者ステュアート・J・ブラウンは、チャーマーズをロバート・オーエンなどとともに共産社会主義者に入れているほどである。それが妥当かどうかは、もうすこしチャーマーズの著作の分析をすすめなければ、いまのとこと判断できない。以上の事柄は、日本ではまだ知られていない事実である。研究には手をつけたばかりで、セント・アンドリューズ大学グループの全体の輪郭もその思想的特性も、それらをあきらかにするには、まだだいぶ時間がかかりそうである。
|