男子労働者の企業内賃金構造に関する日韓比較によれば、次のような共通した事実が発見された。第一に、年令それ自体を考慮したモデルは内部経験と外部経験とを別々に考慮したモデルよりも高い決定係数を与える。第二に、年令要因が企業内賃金構造に及ぼす効果は、内部経験と外部経験とが個別に及ぼす効果の和よりも大きい。これらの事実は、年令がそれを構成する人的資本諸指標と異なった働きを企業内で演じていることを示唆するものといえよう。 本研究では、このような年令要因の作用を生活費保障仮説の観点から解釈した。この解釈は、本研究のモデルが説明変数の1つに職種経験年数を含み、年令効果と職種経験の効果とが分離されているために、従来の分析の場合よりも受け入れ易くなっていると思う。ただし、加令と共に蓄積される人生経験の効果は、依然として未分離である。いわゆる年功は、この漠とした経験の作用も含む。しかし50才前後から低下し始める年令別賃金の動きを、この要因と関連づけるのは困難である。なぜなら、人生経験が50才前後を境にその効果を失うとは思えないからである。 回帰分析に基づいて賃金構造を諸要因に分解した結果によれば、高校卒以上の学歴をもつ平均的属性の男子労働者の賃金が中卒者初任給から示す#離部分の60%以上は、日韓両国において、年令要因(したがって生活費保障)に帰着させることができる。これに対して、内部経験の寄与率は日韓ともに大企業で10%前後、小企業では2〜3%にすぎない。それゆえ企業勤続年数あるいは特殊人的資本の作用に強く依存する仮説は、事実から離れているといわざるをえない。
|