終身的雇用慣行のある経済では、外部市場の移動率が低い反面、内部市場の移動率が高いといわれている。終身雇用制度が経済的効率性と両立するには、さまざまな構造変化に対応して組織内部で労働力の移動が行なわれていなければならない。これは現在では多くの人々によって支持されている通説であるが、国際間の比較が極めて乏しい分野である。 日本および韓国の両国におけるマイクロデ-タの利用可能性は、この論点に関する興味深い国際比較を可能ならしめた。職種別デ-タを用いて労働者を職種経験年数別・勤続年数別に整理するなら、職種経験年数が1年未満でかつ企業勤続年数が1年以上のセルに入る人々をとらえることができる。かれらは企業内で職種間移動を行なった者である。全労働者に占める企業内職種間移動者の割合を求めることにより、企業内移動率の国際比較ができる。本研究は日韓の2ヵ国に米国を加え、3ヵ国の間で比較を行なうことができた。 結果は職種分類の精粗に依存するが、いずれの国も3桁分類である。これによれば、どの国でも移動率は2%未満であり、水準として非常に低い。さらにわが国を内部市場の移動率が特に高い国と考えるべき根拠も見当たらない。日本のデ-タはホワイトカラ-職種の多くを欠いているが、それを含めたからといって、移動率が高くなるとは限らない。韓国はその一例であって、1985年の企業内職種間移動率は職員を除く場合も含む場合も同一水準であった。日本の場合は資料の制約があって、この点を吟味することができなかった。 企業内移動のもう1つの側面は、同一企業内における産業間労働移動である。これについての数量的な国際比較は全く手のつけられていない領域であり、資料の発掘とそれに基づく比較分析は、今後の研究にまつしかない。
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