本年度の研究調査の中心は、首都圏・福岡・京都における建設職人の労働組合を対象に、聞き取り・資料収集行われた聞き取り・資料蒐集・アンケ-ト調査であった。アンケ-ト調査は、京都建築労組の協力を得て現在回収の過程にあるので、ここでは調査の過程で獲得した資料・情報によって得られた知見の若干を記すと以下のごとくである。住宅建築業における賃金決定機構には大きな変化が生じつつある。それは、消費者-親方-職人との関連の中で行われていた「協定賃金運動」の重要性が、次第にゼネコン・住販メ-カ--親方-職人の関連の中で行われる「企業交渉」のそれに交代しつつあるということである。首都圏と比べれば、なお町場大工的仕事が残っている京都の場合でも、「協定賃金運動」から「企業交渉」に賃金運動の重点を移行し、特に今年度からは、大阪での「企業交渉」への参加に加えて、京都独自の「企業交渉」を開始した。消費者-親方の関連での労働の買い手が不特定あるいは無数の存在であったのに対して、ゼネコン・メ-カ--親方の関連での労働の買い手はせいぜい百社であり、スタジオ・ミュ-ジシャンの場合に似た賃金決定機構制度化の可能性が生じつつある。この可能性が強い現実になるならば、建築職人の組合の大きさ(東京土建の場合、組合員は約7万で、都労連に次ぐ第2位の大きさ)からして、日本の労組組合全体に与える影響は著しいものとなるであろう。外国人労働の流人問題は、そのような労働市場機構の形成にとってそのままではマイナス要因だが、政策的対応如何では、プラス要因にすることもできよう。ともあれ、こうした知見は、日本の労働組合を会社別労働組合一色に描写する通説の限界を明らかにする。19世紀イギリスの職能組合とは当然異なる点はあるが、賃金規制、労働市場規制において、職能的結集によりながら、労働機能を果たしている労働組合が、現代の日本にもあるのである。
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