かって、J.S.ミルは「富める国の地価は上がり続ける」といったことがあった。世界の中心地であったイギリスの1840年代の狂乱地価、そして1920年代のアメリカの異常な地価高騰は、このミルの理論を裏付けている。しかし、昭和60年からはじまった東京圏を中心とした日本の異常な地価の上昇は、まさに「狂乱地価」そのものであった。 狭い国土で、高い生産性(土地)をあげている日本列島であるだけに、地価は上がりやすい条件がそろっている。経済のソフト化、国際化などを背景にして、この数年間で、推定1千兆円もの地価上昇による含み益(バブル)が発生した。この額は、アメリカの国土が2つ買える程の巨額である。しかも地価が上昇した地域と、そうでない地域とに二極分化されたので、極端な地域格差をもたらした。さらに深刻化したのは、富める者とそうでない者との間の資産格差を極限にまで拡大させてしまったことである。 このような異常な地価高騰が発生する要因には多くのことが考えられるが、その有力なものに「開発利益」が土地所有者等に独占されている制度、税体系があることが指摘されよう。開発利益の還収が不十分であると、土地投資が活発化し「地価神話」の源泉になりやすい。わが国の今回の狂乱地価は、まさにこのことが指摘される。 ところで、この開発利益は、いまだその定義すら定着していない。しかも、その利益をどのように明確に把握し、それを土地所有者などに、どう負担(還収)させるかがはっきりしなかった。その重要性は各国で指摘されながらも圧力団体の反対や技術的制約もあって実現されなかったケ-スが多かった。しかし最近、韓国では、これに直接関連する法を制定した。日本でも「土地基本法」の中で開発利益の還収を明確にした。世界各国の実情と理論的分析を研究し、その成果を公表してきた。
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