戦後ライン河航運の再建過程には二つの国際機関、すなわち政府間機関としてのライン河航行中央委員会(ストラスブール)および非政府間組織としてのライン商業会議所連合(ロッテルダム→ストラスブール)が関っている。本年度はさしあたり後者に焦点を当て、この組織の成立過程においてライン河航運の再建、拡充加喫緊の課題として重視された事情を分析した。当連合はロッテルダム商業会議所会頭ファン・デア・マンデルとケルン商工会議所会頭グライスの協力の下に1949年9月創立された。現在はライン、ローヌ、エルベ三国際河川沿岸域の7ヵ国87会議所が加盟している。当連合の創立過程をドイツ側資料について分析すると、戦後西ドイツの経済的地域構造の骨格が浮び上がる。連合設立準備委員会では、ライン河航運における西ドイツ籍船の権利回復や被災した港湾の復興と並んで、高ライン航運(バーゼル・コンスタンツ間)の実現とライン・マイン・ドーナウ大航路建設とが、とりわけマーシャル計画による復興援助資金の優先的割当の対象として検討された。両計画とも河川改修、運河建設と結合して発電所建設をも含んでいたため、当時不足していた電力の供給増に対する期待と相まって、両計画の経済性と国際性の評価をめぐって複雑な会議所間の対立が生じたが、それは西ドイツ内部の南北対立に収斂したとみることができる。なお両計画のうちライン・マイン・ドーナウ大航路建設は現在なお進行中であるが、1992年(ヨーロッパ共同体経済統会期限)までに完工予定のマイン・ドーナウ運河建設がその中軸を成す。この建設、管理、発電にあたるライン・マイン・ドーナウ株式会社(RMD ミュンヘン)の企業資料を直接入手できたので、当該運河がヨーロッパ統合と西ドイツの地域分解とを同時に促進しうるという逆説的役割を最新資料によって確認することができた。以上の成果をふまえて来年度は南北格差の検討も始めたい。
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