研究概要 |
戦後ライン河航運の再建過程は西ヨ-ロッパ経済、とりわけ西ドイツ経済のそれを集約的に表現する。ライン河航運には特に二つの国際機関、ライン河航行中央委員会と西ヨ-ロッパ商工会議所連合が直接に関っており、両機関ともEC、EFTA、ヨ-ロッパ会議等と密接な関係を保っている。したがって該過程はヨ-ロッパ経済統合過程としても進行した。これは具体的には次の諸計画、すなわちニ-ダ-ラインとワ-ルの水深増大、中部オ-バ-ライン拡張、ニ-ダ-ライン流路安定化、ラインースヘルデ運河建設、モ-ゼル河可航化、ザ-ル河拡張、ホッホラインへの航路延伸、ド-ナウ河拡張、ラインーロ-ヌおよびラインーマインード-ナウ二大航路建設等によって推進された。これらの諸計画の多くが西ドイツの空間政策に組み込まれ、西ドイツ経済の安定的、均等的発展に大きく寄与したことは疑いを入れない。 しかし、該過程は西ドイツに二重の地域変動をもたらしていた。第一はライン水系という南北軸を跨ぐ国境地域の結合体としてのregio,Euregioと呼ばれる諸地域の形成であり、第二は「南北較差」と呼ばれる南北ドイツ間の地域較差の発生である。第一の地域変動はライン河の地域結合効果が国境線による地域分断効果を相対化しうる国際政治要因の発生によるものであり、第二のそれは石油危機以降古典的重工業の成長力が低下したという産業構造要因によるものである。したがってこの両地域変動を同一次元で関連させることはできない。 とまれこの西ドイツ経済の地域分化現象はドイツ経済の史的空間構造の枠内で理解することができ、原経済圏概念(西南・西北・中部ドイツ経済圏)の有効性が確められた。この間の両ドイツは統一によって予想されるがエルベ水系を軸とする新しい地域変動の分析は今後の課題であるが、その際にも原経済圏概念が有効性を発揮するものと考えられる。
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