第一次大戦後のワイマ-ル期および第二次大戦にいたるナチス期のドイツにおいて中小規模の資本主義的企業と小経営・小営業がいかなる状況にあり、またいかなる展開を示したかを明らかにするために、第一年度は金属加工・木材加工・皮革加工・衣料品製造・食品加工および建築業など加工・組立業における中小資本の発展の具体的状況を解明した。その結果、第一次大戦前後を含め、1929年の大恐慌にいたる時期においては、これらの中小規模の資本制的経営がむしろ顕著に発達することが明らかとなり、これまで考えられてきたような金融資本的蓄積様式の単純な貫徹とはいえないことがわかった。しかし、同時に1920年代末になると中小資本は過当競争に直面し、第一次大戦後とくに強化された巨大企業とその独占化の過程に対して反発を強めるにいたり、それが政治的にはワイマ-ル共和制への批判として現われた。以上の考察は、これまでの研究史が「手工業」とか「中間層」(Handwerk/Mittelstand)の同時代の用語にこだわり、そのために経済学的分析が困難となっていたことへの批判をも含んでいる。続いて第二度には、中小経営とナチズムの関連およびナチスによる対応について分析し、ナチスの経済政策の原則を「フェ-ダ-綱領」に関して明らかにした。その結果、それが単純に「前近代」・「前工業」とはいえない面を有し、むしろそこには労働や勤労とそれに基づく経営活動を重視する古典的な資本主義の理念に共通する要素が多く存在したことが明らかになった。このことは、A・シュヴァイツァ-やH・ヴィンクラ-が理解しえなかった点であり、ナチズムが決して前近代的なものとしてでなく、古典的形態の資本主義経済の危機への対応であったことを示している。
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