本年度の研究は、戦時期に直接的兵器用素材供給で最も重要な産業部門である特殊鋼生産について個別企業分析及び特殊鋼産業の概要を研究した。 戦時下で最も目ざましく発展した特殊鋼企業である大同製鋼株式会社をとりあげ、米国戦略爆撃調査団(U.S.S.B.S.)に同社が提出した資料を利用して、生産・販売・原料供給などの諸側面を分析し、大同が戦時下でどのような発展を示したのかを明らかにした。各工場の水平的展開によって、生産量を急増させ、軍需に依存しつつ、一方で軍部からの原材料供給で優位性を保ちながら、高蓄積を実現した。こうした高蓄積とともに同社は、関係会社への投資を急増させ、産業コンツェルンとして成立した。 こうした個別企業の分析を踏まえて、特殊鋼産業全体の展開にまで研究を発展させた。戦時下の特殊鋼生産の発展は、初期においては、企業間競争を激化させ、中小企業の新規参入が増加した。しかし、政策的誘導も受けて増加した製造所は、一方で企業の乱立と粗製濫造を招来し、兵器生産用素材としての適格性を欠くことになり、次第に設備投資規制を強化した。こうした中で、一部上位企業は、軍需への依存と研究開発の強化によって、急速な発展を実現することができた。 今年度は、資料収集に重点を置いたが、重化学工業の分野では、アルミニウム、自動車などを中心に収集した。アルミニウムについては、昭和電工株式会社の若干のデータと資料を収集したが、日本軽金属については残されている。自動車は、全体的なもので、個別企業へのアプローチは今後の課題である。
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