本年度は日本の戦時重化学工業の基礎的素材の1つであるアルミニウム工業の成立と発展について、資料収集及び論文作成を行った。戦前日本のアルミニウム精錬業についての研究は、蓄積が少く、資料の量・質ともに貧しい分野である。まず、アルミニウム統計をそろえるのに力を注いだ。アルミニウム連盟、軽金属協会などが保存している統計資料を収集し、戦前のアルミニウム産業の概要を統計的に把握した。また、日本のアルミニウム国産化が国際カルテルの強力な支配の下で行われた点を考えると、国際的なアルミニウム産業の展開の中で日本の位置を確定することも必要になる。そこで、和歌山大学所蔵のMetal Statisticsの戦前アルミニウム統計を整理した。次いで、日本のアルミニウム市場の問題を考える上で、必要不可欠な業界紙『金物時代』の収集を行った。企業関係の資料では、日本で始めてアルミニウム国産化を実現し、アルミニウム寡占体制の1角を構成した昭和電工(日本沃土→日本電工→昭和電工)について資料の収集と中間的なまとめ論文を作成した。昭和電工のアルミニウム国産化の過程を、技術、原料、市場、資本の視角から整理し、日本で始めてアルミニウム工業化に成功した要因・条件を研究した。昭和電工を中心とした森コンツェルンの成立とアルミニウム国産化の関連を明らかにし、昭和電工(日本電工-当時)が何故アルミニウム部門に進出したのかを、企業経営の側面からも明らかにした。 戦時重化学工業化は、大企業によって主導されたことは勿論であるが、一方で、厖大な中小工業の存在が大企業の発展を促し、又は制約したのである。こうした戦時重化学工業化に不可欠な中小工業の資料収集も本年度集中的に行った。来年度に戦時企業整備についての研究成果をまとめる予定である。
|