本年度は、最終年度にあたることから、従来収集した資料のとりまとめと論文の執筆に力を注いで来た。成果としては、特殊鋼についての研究とアルミニウム産業に関する論文をとりまとめることができた。特殊鋼生産では、最大のメ-カ-である大同製鋼の内部資料を利用して、戦時中の特殊鋼生産の実態にせまることができた。特殊鋼は、直接的な兵器素材として利用されるために、優先的な資源配分を受けており、戦時中でも特殊なものを除いて不足はなかったので、生産は戦争末期まで落ち込まなかった。確かに、海外に依存するニッケルなどの不足は深刻であったため、代用規格の製定などによって生産を行なっていたので、生産の質は大きな問題となる。のことは、戦時の生産に共通するものである。戦時生産の崩壊は、特殊鋼の場合には、熟練労働力の不足と自然的災害が、大きな引金となって、生産が急低下したのである。 アルミニウムは、航空機素材として重要なものであることは早くより認識されていたが、原料ボ-キサイトのない日本においてどのように確立するかが最大の問題であった。府の政策としては、当初は国産原料によるアルミナ生産を推進したが、1929年頃から古河鉱業の資源獲得の見通しを受けてボ-キサイトからのアルミナを生産するバイヤ-法に重点をおくが、結局最初に国産化に成功するのは国産原料によるアルミナーアルミニウム生産ということになる。しかしながら、明礬石を原料とするアルミニウムは、品質の点で劣っていたため、軍事向けの素材としては不適格であったことや、技術的な困難さのために挫折したのである。しかし、その後のアルミナーアルミニウム生産、技術面で寄与するところで大であった。
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