3年計画の研究なので、本年度は準備段階に主眼を置き、分析の枠組み作り、歴史的概観を行うことを予定していた。基本的な統計の収集・整理も不可欠な作業であった。しかし幸いにも予定よりも研究の進展があり、昨年中に研究成果の一部を裏面記載のようにまとめるこができた。 1.「邦銀の国際業務」は、基本統計を幅広く検討しつつ、業務の急成長を促した要因を制度的前提、企業行動様式などに関連させて論じた。なかでも、資料が公表されていない国際業務の利潤率を推計し、低収益性が業務拡大を可能にする動力になっていることを、実証的に解明した。この論文は、本研究の出発点になる。2.「国際銀行業務における競争・規制・不安定性」(石見・伊藤共編書 所収)は、国際業務をより広く世界的な資金仲介レヴェルで分析した。したがって邦銀にかぎらず先進国の銀行がユーロ市場において展開する競争のあり方、国際金融不安との関連、また金融不安を解消するのにいかなる方策があるか、等を論じた。この問題は、本研究を広い視野から捉え返すのに有効な試金石となる。しかし、問題が複雑なだけに、今後とも理論、実証の両面で残された宿題は多い。3.「円の国際化」(小野・西村共編著 所収)は、教科書の一部を分担執筆したものである。その意味では研究成果をやや性格を異たするが、国際通貨の条件、銀行と他の金融機関との関連など基礎知識を整理したことになり、準備作業の一つに数えることができる。 2にふれたように、初年度の作業で残された論点は数多いが、なかでも重要な課題は、邦銀が仲介する世界的な資金フローを国際金融システムの安定性に関わらせて究明することである。
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