我々は、軽いシグマ・ハイパ-核Σ^^4HeとΣ^^4Hの存在を理論的に予言した。1988年秋、東大原子核実験グル-プは、高エネルギ-研究所の陽子加速器をつかって、このシグマ・ハイパ-核Σ^^4Heの観測に成功した。これが、現在世界で発見されているシグマ・ハイパ-核の唯一の例である。我々はこの実験をうけて、Σ^^4Heの構造を研究した。その結果、シグマ粒子と核の間の相互作用について、他には見られない特徴があることを明らかにした。一つには、シグマ粒子と核の相互作用には中心附近に斥力芯があらわれることである。この斥力芯は、シグマ・ハイパ-核の寿命を、以前に考えられていたものよりは、長くするのに大きな役割を果している。二つには、その相互作用に、強いアイソスピン依存項が存在することである。この項は、東大原子核実験グル-プが得た(K^-、π^-)と(K^-、π^+)反応のスペクトルの違いから、実験的にも確認された。この項は、Σ^^4Heの結合状態をつくり出すのに決定的である。 以上の相互作用の特徴に基ずけば、我々は、第2・第3のシグマ・ハイパ-核の存在を予測することができる。鉛のような重い核でも、ク-ロンの力の助けを借りて、幅の狭いシグマ・ハイパ-核が存在しうると考えられる。日本の高エネルギ-研究所では、重いシグマ・ハイパ-核探索の計画が立てられようとしている。 今回の科学研究費補助金ですすめられた我々の仕事は、シグマ・ハイパ-核という学問分野を新しく拓いていく出発点になったものと考えられる。
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