研究概要 |
準備の段階からの研究成果の概要を記す。 1.不純物スピン共鳴:価数揺動物質の研究はこれまで、困難であった。その理由は、これらの物質のほとんどが金属的性質を示しスピン-格子緩和時間T_1が非常に短いからである。ところが、SmB_6とYbB_<12>は例外で、低温で絶縁体となり、T_1が長くなる。申請者等はこれに着目し、SmB_6に観測しやすいS-stateをとるGd、Euイオン添加して、不純物スピン共鳴の観測に成功した。[J.Magn.Magn.Mater.52(1985)271.] 2.Disorder Siteスピン共鳴:大阪大学極限物質研究センタ-でGdB_6においてGdとB_6クラスタ-の置換によるdisorderが極くわずか存在することが発見された。これを手掛かりにして、GdB_6とおなじ結晶構造をもつSmB_6のdisorder siteをESRでつきとめた。[J.Phys.Soc.Jpn.55(1986)3737] 3.値数揺動物質の強磁場ESR:価数揺動物質のバンドギャップが強磁場で消失することが知られている。これが電子スピン共鳴にどのように反映するかを調べるために、大阪大学極限物質研究センタ-と共同で、パルス強磁場を用いたESR測定装置を完成させた。手始めに、これを利用して、CuSO_45H_2OのESRの測定を試みた。その結果、この物質におけるexchange splittingの全貌を捉えることができた。[J.Phys.Soc.Jpn.57(1988)4366] 4.GdB_6のESR:価数揺動系のESRと比較するために、このGdB_6のESRの研究を行った。これまで、多結晶の試料を用いた研究はあるが単結晶のESRの研究は今回が始めてである。その結果、常磁性領域でのESRシグナルとともに、非常にブロ-ドながら、反強磁性共鳴の観測に成功した。 5.Nd_2CuO_4のESR:価数揺動と同様な強い電子相関をもつ物質の研究を拡げて、最近注目されている電子キャリア-型の高温超伝導物質のESRをX-バンドのマイクロ波を用いて行った。その結果、30K以下で非常にブロ-ドなスペクトルを発見した。これはNdスピンによるもので5Kの温度でg値が異常に減少する現象と異方性が現れることを見いだした。10K以上の温度では,gの値は一定(0.85)で等方的であった。この値は、Ndの自由イオンの値に近い。また10K以下のg-シフトはNdスピンの短距離秩序によるものであることを明らかにした。[J.Phys.Soc.Jpn.投稿中]
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