本研究では、強磁性金属層を含む多層膜と既知の電子状態を有する金属との間のスピン偏極トンネル効果を利用し、多層膜の電子状態と磁性に関する基礎的理解を得ることを目的として研究を進めている。本年度は、測定系の改良とトンネル接合試料の作製および基礎データの蓄積に主眼を置き研究を進めた。研究代表者の異動(横浜国大・工→帝京技科大・情報、昭和63年4月)に伴い、多少の時間的変更は見られるが、計画はおおむね予定通り進行した。 1.測定系の改良 本年度科学研究費補助金により、低温温度計/コントローラ(パームビーチクライオフィジックス・モデル4075・センサ、GPーIB付)および液体ヘリウム金属容器(東理社・4WB10l型の他、シーベル10l型液体窒素容器、トランスファーチューブを含めて一式とした。)を購入した。これらを既存の測定系に導入しこれを改良した。現在4.2k〜300kの制御された温度下でトンネル特性測定が可能である。更に、1.5kより測定可能となるよう改良を続けている。 2.トンネル接合試料の作製と基礎データの蓄積 Al_2O_3、NiOを絶縁層としたNi/Al_2O_3/Al、Co/Al_2O_3/Al/Ni、Co/NiO/Niなど種々のトンネル接合につき基礎的データを蓄積した。すなわち、抵抗測定により、これら金属酸化層の形成過程につき知見を得、又、磁化測定、MーH曲線測定および強磁性共鳴測定により、接合の多層構造および各層間の磁気的相互作用につき検討した。各種IーV特定を測定し、特にCo/NiO/Ni接合では、接合の両電極の磁化の相対角度に依存したトンネル電流を確認した。成果の一部は日本物理学会第44回年会で発表した。(講演番号29aーPSー91、平成元年3月、於東海大学湘南校舎) 以上、装置改良と基礎データの蓄積検討を行ない、来年度に備えた。
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