研究概要 |
本研究は,強磁性金属層を含む多層膜と既知の電子状態を有する金属(超電動Alなど)との間のスピン偏極トンネル効果を利用し,多層膜の電子状態と磁性に関する基礎的理解を得ることを究極の目的として実験が進められた。本年度は特に,NiO層をトンネル障壁とし,これを二つの強磁性層ではさんだトンネル接合をも作製し,両電極の磁化の相対角度に依存したトンネル効果(磁気バルブ効果)を初めて常温で見い出した。 1.トンネル接合試料の作製とトンネル分光 〔強磁性金属層-Al層-Al_2O_3層-Al(又は強磁性金属)層〕の構成をもつ接合試料を種々試作し,トンネル特性を詳しく検討した。強磁性金属層に接しこれと多層膜を構成するAl層がスピン偏極トンネル効果に及ぼす影響を検討するため、Al層の厚さを種々換えた接合につき,15KOe以下の磁場中,2〜300Kの温度範囲でトンネル特性を調べた。トンネル分光による,多層膜における伝導電子と3d電子との相互作用の解明までには到っていないが,磁化曲線,強磁性共鳴など各種磁気測定とともに,基礎デ-タが蓄積され今後の見通しが得られた。 2.〔強磁性金属層-絶縁層-強磁性金属層〕形の接合と磁気バルブ効果 本年度は更に,絶縁層としてNiO層をもつNi-NiO-NiおよびNi-NiO-Co接合を種々作製し,その特性につき検討した。それらの電流-電圧特性の磁界依存性を詳しく検討した結果,スピン偏極トンネル効果が強磁性金属層自身の通常の磁気抵抗効果から分離して測定され,両電極の磁化の相対角度に依存したトンネルコンダクタンスが観測された。この磁気バルブ効果は,IBMのSlonczewskiにより理論的に予測されたが,実験例は国内外とも僅少で,4.2Kにおける観測例が2件報告されているのみである。本研究のように,詳しい実験結果と上記理論との比較から,常温で磁気バルブ効果を確認した例は初めてである。
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