本研究は、強磁性金属層を含む多層膜と既知の電子状態を有する金属(超伝導Al等)との間のスピン偏極トンネル効果を利用し、多層膜の電子状態と磁性に関する基礎的理解を得ることを究極の目的とする。 〔1〕測定系の改良 現在、トンネル接合試料のトンネル特性を、3〜300Kの温度範囲、また0〜15kOeの磁界中で測定できる。本補助金で購入した低温温度計/コントロ-ラ(パ-ムビ-チクライオフィジックス、モデル4075)が用いられている。 〔2〕トンネル接合試料の作製とスピン偏極トンネル分光 以下のタイプの接合試料を種々作製し、検討した。 (1)Al(または、強磁性金属)/Al_2O_3/強磁性金属 接合 (2)Al(または、強磁性金属)/Al_2O_3/Al/強磁性金属 接合 (3)強磁性金属/NiO/Ni 接合 (1)および(2)のトンネル接合では、基板側にトンネル分光の対象となる強磁性金属電極を配置し、その上に蒸着した薄いAl膜の表面を、大気中熱酸化し、Al_2O_3の絶縁障壁を形成する。この方法は我々独自の考案によるが、基板側電極の種類が限定されず、かつ安定なAl_2O_3層を利用できる。この際、Al膜の厚さ如何でAl層が残りAl/強磁性金属の多層膜も検討できる。トンネル分光による多層膜の電子状態の解明にまでは至っていないが、磁化曲線、強磁性共鳴など各種磁気測定により、多層膜の磁性に関する知見を得た。これらの基礎デ-タに基づき今後の見通しを得た。 〔3〕磁気バルブ効果の室温観察 本研究の過程において、NiO層を絶縁障壁として、強磁性金属/NiO/Ni接合を作製し、強磁性金属およびNi電極の磁化の相対角度に依存したトンネル効果(磁気バルブ効果)が、初めて室温においても、観測された。この効果は、理論的に期待されているものの、実験結果の報告例はきわめて少ない。
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