昭和63年度の予算で購入したコンピュ-タおよびプログラマブル直流電圧/直流源などによって計測系を整備し、Fe(110)清浄表面とその気体吸着面および高温超伝導体Nd_<2-x>Ce_xCuO_4(001)清浄表面の電子状態を研究した。角度分解紫外光電子分光実験は京都大学理学部化学教室および高エネルギ-物理学研究所放射光実験施設において実施し、得られた結果の一部は公表した。以下に得られた成果を記す。 1.Fe(110)清浄表面と気体吸着面 良好な(1×1)定速電子パタンを示すFe(110)単結晶清浄表面を作成した。表面の清浄度はオ-ジェ電子分光により確認した。清浄表面の角度分解紫外光電子分光実験により、バンド計算が予想する値より約3倍の大きさのスピンー軌道相互作用による価電子バンドの分裂(約100meV)を初めて観測した。従来のバンド理論はスピンー軌道相互作用を適切には取り入れていない。理論の発展が望まれる。表面温度80Kにおける各種気体の吸着実験を行った。この温度ではCOとH_2気体は吸着するが、XeおよびN_2気体は吸着しないことがわかった。COおよびH秩序吸着面の電子エネルギ-分散関係を調べたが、現在デ-タを解析している 2.高温超伝導体Nd_<2-x>Ce_xCuO_4(001)清浄表面 高温超伝導体はP型であるというこれまでの常識を破った初のn型高温超伝導体Nd_<2-x>Ce_xCuO _4の単結晶(001)清浄表面について角度分解紫外光電子分光実験をしてその常伝導相における価電子状態を調べた。全体的に弱いk分散、フェルミ端の存在、フェルミ端直下の小さいが幅の狭いCu3dキャラクタ-の電子準位の存在を明らかにした。
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