遷移金属単結晶の清浄表面・気体吸着面および酸化物単結晶表面の電子状態を角度分解紫外光電子分光により調べることが研究目的であるが、そのために、まず、コンピュ-タ等の導入により計測系をディジタル化し整備してデ-タの質的向上を図った。角度分解紫外光電子分光実験は高エネルギ-物理学研究所放射光実験施設においても実施した。得られた研究成果を以下に記す。 1.p型酸化物高温超伝導体として代表的なYBa_2Cu_3O_<7-x>の(001)単結晶表面を清浄化し、良好な(1×1)低速電子回折パタンを観測した。この清浄面について角度分解紫外光電子分光実験を行い価電子状態を調べた。その結果、価電子バンドはk分散を示すこと、明瞭なフェルミ端があること、フェルミ端近傍にもk分散を示す強度の弱い電子準位がいくつか存在することを見出し、この酸化物の常伝導状態ではバンド理論が成立することを明らかにした。 2.初めてのn型酸化物高温超伝導体であるNd_<2-x>Ce_xCuO_4の単結晶(001)清浄面を作成し、良好な(1×1)低速電子回折パタンを観測した。角度分解紫外光電子分光実験により価電子状態を調べた結果、全体的に弱いが有限のk分散、鋭いフェルミ端、近藤型共鳴準位と思われるフェルミ端直下のCu3dキャラクタ-の鋭い電子準位を見出した。この酸化物の常伝導状態でもバンド理論は成立しうると結論できる。 3.良好な(1×1)低速電子回折パタンを示すFe(110)清浄表面について角度分解紫外光電子分光実験を実施し、従来のバンド理論が予見する値の約3倍もの大きさのスピン-軌道分裂を価電子バンドに発見した。また、COやH吸着面のバンド構造も調べた。
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