金属表面での吸着子の動的現象を支配している要因としては、断熱ポテンシャルの幾何学的構造や吸着子の持つエネルギ-の表面自由度への散逸が考えられる。さらに、振動状態や回転状態などの内部自由度を持つ分子の場合には、表面での動的過程でこれらの内部自由度は様々な変貌を遂げるから、表面と相互作用している分子の内部状態遷移も動的現象を支配する要因となる。このようなことから、本研究では、様々な角度から、金属表面における吸着子の動的現象を調べてきた。以下に得られた結果の概要を記す。1.先ず、金属表面電子系へのエネルギ-散逸が原因となって生じる吸着子の摩擦係数に対して、アンダ-ソン・モデルの巌密解を援用した計算を行い、摩擦係数に現れる多体効果などを明らかにした。2.時間に依存するニュ-ンズ・アンダ-ソンモデルの枠内での計算によって、荷電粒子の持つエネルギ-の表面電子系へのエネルギ-散逸機構に及ぼす非断熱効果を明らかにした。3.吸着分子の状態を格子ガス・モデルで記述し、モンテ・カルロ法を使って、共吸着系の昇温脱離スペクトルの解析を行なった。その結果、脱離スペクトルに現れる吸着子間相互作用の効果などを明らかにした。4.CuやPd表面と水素分子からなる系のポテンシャル・エネルギ-曲面上での水素分子のダイナミックスを解析し、解離吸着過程における分子内振動エネルギ-の役割や会合脱離分子の振動状態分布には、断熱ポテンシャルの幾何学的構造の特徴がきわめて敏感に反映されることを明らかにした。4.金属表面でのCO分子の酸化反応は、触媒反応の典型例であるが、特にPt(100)、Pt(110)やPd(110)での反応に見られる振動現象の解析を行い、表面および表面近傍の構造と反応性との密接な関係を明らかすることができた。
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