研究概要 |
強磁場下の2次元電子系で観測される量子ホ-ル効果が,系の有限性の影響をどのように受けるかを明らかにする目的で,昨年度に引き続き研究を行った。不純物を含む有限幅2次元系(長さが有限な円筒面上にあると仮定)に垂直な磁場を加えた場合の電子状態を,計算機シミュレ-ションによって解析した結果,昨年度の成果に加え,以下のことが明らかになった。 1.バルクの非局在状態とエッヂ状態の混合の仕方は,不純物ポテンシャルの相関距離敏感である(短距離である程混合が強い)。 2.ホ-ル電流の補償(局在化による損失を非局在状態の寄与で補うこと)は,グロ-バルに起こるだけではなく,局所的にも起こり,その結果,充填因子が1の近傍では,ほゞ一様なホ-ル電流分布が得られること。 3.上記の補償が起こる前段階で,ホ-ル電流分布及びホ-ル伝導度に大きな揺らぎが見られること。 4.非局在状態の広がり方を特徴づけるフラクタル次元は,幅の方向と長さの方向で,エネルギ-領域に応じた異方性を持つが,バルクの非局在状態では,ほゞ等方的であること。 5.ホ-ル電流の流れを,有限の高さのゲ-ト障壁によって妨げる場合でも,充填因子が1の近傍では,一様なホ-ル電流分布が得られること。 当初の計画に含まれていた,ホ-ル電流分布に対するク-ロン相互作用の影響については,今年度も特に進展は得られなかった。この問題は今後の研究課題として残される。非局在状態のフラクタル性と,一様なホ-ル電流分布から分かることは,一様な電流分布を得るために,必ずしも2次元的に広がった状態を必要としないということである。
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