我々は、まずインバージョンの準備として、モード間のカップリングを変分法により考慮にいれて計算した。不均質地球モデルに対する固有振動数と固有関数を計算した。次にこれらを使い、偏微分係数を数値的に求めて、その精度を確認する数値実験をおこなった。数値実験は、不均質地球モデルを仮定し、モデルに加えた有限の摂動をスペクトルの変化として表わし、そのスペクトルの変化を偏微分係数で再現できるか試すものである。結果は、偏微分係数は、充分な精度を持つことを示しており、逐次インバージョンの各ステップにおいて、初期モデルを改善していくことが可能であることがわかった。そこで、実際のインバージョンの1ステップを再現し、現実的な計算量で1回のステップが行えるかどうかを確認する実験を行った。実験では、狭い周波数帯域を用い、S波速度の波数へ及び2の不均質構造を求めることにした。使用した地震の数もデータの数も実際のインバージョンより1桁少い数で行った。インバージョンの結果は、求まったモデルは、最終的な結果ではないが、現実の地球のテクトニクスと調和的であり、逐次インバージョンの1ステップを正しく行えることがわかった。一方計算量は、メモリ、計算時間ともに、充分現実的なものであり、逐次インバージョンによって最終的なモデルを得られる見通しができた。また今年度には、この研究に関連した理論的問題についても検討を加えた。1つは、不均質な自己重力を持つ地球モデルに対するラグランジアンの導出である。これまでの研究では、ラグランジアンは水平方向均質なモデルに対してのみ、求められていた。2つ目は、変分原理に基づく、運動方程式の新しい導出である。これにより、これまでの導出にあった矛盾が解消された。
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