人工衛星で得られる海面高度のデータには、人工衛星の軌道高度の測定誤差という、大きな誤差が含まれているので、まずこれを除去するための方法を確立する努力をした。ここでは、最適内挿法、あるいは客観解析法と呼ばれる方法を適用した。この方法は、求めたい信号と、除去したい誤差の、統計的な性質が予め分っており、それらがお互に異っている場合に威力を発揮する。人工衛星海面高度計データもその一つである。基本的には、米国マサチューセッツ工科大学で使われている海面高度計データの処理プログラムを、京大大型計算機センターに移植し、かなりの手直しを加えて実用プログラムとした。 具体的に研究の対象としたのは、人工衛星SEASATの海面高度計データである。対象海域として西部北太平洋(20°ー50°N、120°ー150°E)を選んだ。海洋物理学的に意味のあるのは、実際の海面高度が地球のジオイド面からどれだれずれているかを示す、力学的海面高度なので、最新のジオイド高・データを利用した。 まずSEASATの全期間(1978年7月ー10月)のデータを基にして、この期間中の平均の力学的海面高度を求めた。しかし、使用したジオイド高・データの精度が不充分であり、得られた結果は力学的海面高度としては使えず、逆に、その期間中の海洋観測資料から求めた海面での力学的高度のデータと組み合わせることにより、ジオイド高・データを補正するたに使った。次にこの平均分布からのずれである。時間変動成分を求め、上記の海面での力学的高度のデータと組み合わせたところ、この期間中に観測船で測定した表面流速のデータを基にして作成された、黒潮流路のパターンの変動と非常によく対応することが分った。このことは、海面高度計データが海面高度の変動を調べるために有効であることと、黒潮が地衡流平衡に近いこととを示している。
|