人工衛星に搭載した海面高度計(アルティメ-タ-)による海面高度の測定は、測定海域がほぼ全世界海洋にわたること、大気の影響が比較的小さいので欠測の割合が少ないこと、得られた力学的海面高度の分布から海面での流速が直接推算できること、などの理由で海洋物理学の分野に新風を吹き込みつつある。しかしながら現在までの人工衛星では、軌道高度の測定誤差が大きいために、そのままでは地球物理学的なデ-タとしては使えない。この研究では、この軌道誤差を客観解析法を用いて除去する方法を開発し、最新のジオイド(地球表面近くの等重力ポテンシャル面で、海洋が静止している時にとる海面の形)・デ-タを用いて、力学的海面高度の平均場や時間変動場を推定し、結果を通常の海洋観測で得られた結果と比較した。北太平洋西部海域を対象海域として選び、人工衛星SEASATの約3ヶ月間の海面高度計デ-タ(1978年7月-10月)を用いた。 昭和63年度には、処理プログラムを完成させた後、SEASATの全期間のデ-タを基にして、この海域における力学的海面高度の時間的な平均場を求めた。得られた、ジオイドに相対的な海面水位の空間分布は、黒潮域の一部では、黒潮の存在にともなう水位の空間変化を表現しているものの、対象海域全体としては、使用したジオイド・デ-タの精度が不十分で、力学的海面高度の平均場の推定値としては使えないことが分った。 平成元年度には、この海域における力学的海面高度の時間変化を求め、日本近海で観測された。黒潮流路の変動や、東北沖での暖・冷水塊の移動、島々での潮位変動などと対比した。その結果、人工衛星の海面高度計デ-タから求めた力学的海面高度の時間変化は、現実の海面水位の長周期の変動をかなり正確に表現していることが分った。
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