昨年度の研究では、豊後水道の基本構造、発生の周期などを明らかにした。本年度は、急潮の季節的な発生の特性、急潮の発生機構、急潮の強さの違いの原因、環境に対する急潮の影響などについて、現地観測や既存の資料の解析などにより検討した。その結果、以下のことが明らかになった。 (1)季節的に見ると急潮は夏期を中心に発生し、10月から1月にかけての冷却期にはまったく発生しない。冬期でも2月以降は稀に発生することがある。 (2)急潮は、潮流や風、海面の冷却などによる鉛直混合の効果が弱い時に発生する。しかし、この鉛直混合の効果のみでは、急潮の発生を定量的に説明することはできず、この効果に加え何か別の効果が働いている可能性が強い。 (3)豊後水道の急潮の強さの変動は外洋の擾乱によって影響され、豊後水道南部に外洋から暖水が供給される時期が小潮の頃に重なると、強い急潮が発生する。このことは、急潮の予報を将来実用化するための極めて重要な知見である。 (4)急潮は、豊後水道東岸の宇和海沿岸で行われている養殖に対し、水温急変による養殖魚介の衰弱や斃死、黒潮系の貧栄養の水塊の流入による生産力の低下などの悪影響を及ぼすと同時に、湾の海水交換を促進することにより水質を保全し、大規模な養殖を支える基本的な要因ともなっている。 (2)発生機構については、有力な手がかりが得られたものの最終的な結論を得るには至らなかった。今後はこの点に関し、地球回転の効果を考慮した検討が必要と思われる。
|