溶液中のポリマーに沿って過剰電子が移動し得るかどうかを明らかにする目的で、ビクェニル基とピレニル基の2種類の官能基をふくむペンダント型ポリマーの2メチルテトラヒドロフラン溶液に電子線パルスを照射して、生じた過渡吸収スペクトルを観測したポリビニルヒフェニルの官能基のうちの約1%をピレニル基で置きかえたポリマーの溶液に100ナル秒のパルスを照射したところ、パルス照射直後にビフェニルアニオンと、ピレンアニオンの両方の吸収が観測された。ビクェニアルオンの吸収は単調に減衰したが、ピレンアニオンの吸収はいったん増加してから減少した。この結果は、ポリマー中のビフェル基からピレニル基に過剰の電子が移動していることを直接的に示すものである。ポリマー濃度を変えた実験から、電子は同一のポリマー鎖中の官能基を伝って移動していることが確められた。照射電子線パルスの比較的永い裾や、ポリマー自身のイオン雨結合反応による減衰の効果を補正したところ、ピレンアニオンの初期の増加とヒフェルアニオンの初期の減衰はいずれも一次過程で近似でき、また互いに連動していることが明らかにされた。そこで目印のピレニル基の割合をさまざまに変えて、ピレンアニオンの初期の増加またはビフェニルアニオンの初期の減少の一次プロットから電子の移動速度を求めたところ、ピレニル基の割合が少いほど見かけの電子移動速度がおそいことがわかった。ピレニル基がポリマー中に等間隔に存在し、電子がその中間にあるビフェニル基に捕捉された後、あともどりすることなく移動すると仮定して解析したところ、電子がポリマー鎖中の隣接する捕捉サイト間をとび越えるのに要する時間は数ナノ秒の程度であることが明らかにされた。この速度はポリマー鎖のねじれによる捕捉サイト間の重なりに要する時間と考えられる。
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