1) 惑星状星雲などにあるとされる、一連の大きくてコンパクトな多環芳香族炭化水素の生成熱(原子化熱)、デュワー型共鳴エネルギー、トポロジー的共鳴エネルギーの計算を行った。惑星状星雲などでは、これらの芳香族化合物は、アセチレンやエチニル・ラジカルから生成するとされるが、アセチレンを出発物質として求めた生成熱から判断する限り、ドデカベンゾコロネンやサーカムアントラセンが特に生成しやすいとの結論は得られなかった。大きくてコンパクトな芳香族炭化水素に対しても、ケクレ構造の数の対数とトポロジー的共鳴エネルギーとの間の比例関係は成立する。 2) 化学進化の模擬実験で生成する有機化合物は、一定の基準でトポロジー的電荷安定化則を満足する。その基準とは、アミン型窒素やアルコール(エーテル)型酸素では例外を許さず、イミン型窒素とケトン型酸素では例外を許すということである。今回、同じ法則が同じ水準で、星間分子や炭素質コンドライトから検出される有機化合物に適用できることを見いだした。イミン型窒素とケトン型酸素の例外を許さないと、星間分子の化学自体が成立しなくなる。 3) 最近、トポロジー的電荷安定化則に反する有機化合物でも、十分な芳香族性があれば、化学進化の模擬実験で生成することがわかってきた。ハレー彗星探査機に搭載した質量分析器も、ピロール、イミダゾールを検出している。化学進化との類推から、芳香族性によって安定化した小型の芳香族化合物が星間分子として存在する可能性は大きい。我々は以前に、化学進化と生合成で得られる有機化合物が、分子構造的に極めて類似していることを指摘した。生物もヒスチジンやフラン誘導体を多数合成しており、トポロジー的電荷安定化則の他に、芳香族性を分子設計の原理として採用していることは明らかである。
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