有機金属化合物、Sn(CH_3)_4の水銀光増感反応の研究を行った。石英セルに反応物質と水銀蒸気の混合物を入れ、120℃で水銀の253・7nmの共鳴線を一定時間照射し生成物を分析定量した。得られた主生成物はエタンとメタンであり、その他に少量の水素が得られた。これらの収量は照射時間および照射光強度と共に直線的に増加することより、いずれも一次生成物であると思われる。エタンの収量は酸素およびシス2-ブテンの添加量を増加させるとともに減少するが前者の効果は非常に大きいことが分った。2-ブテンの効果は励起水銀原子からのエネルギー移動の過程における競争として説明できる。一方酸素の効果は2つの過程においてみられる。1つはエネルギー移動の過程であり、もう1つはメチルラジカルの反応過程である。以上の結果と全圧依存の結果から次のような反応機構が提出される。 (1)Hg+hv→Hg^* (2)Hg^*→Hg+hv (3)Hg^*+Sn(CH_3)_4→Hg+CH_3+Sn(CH_3)_3 (4)Hg^*+Sn(CH_3)_4→Hg+H+CH_2Sn(CH_3)_3 (5)CH_3+CH_3→C_2H_6 (6)CH_3+Sn(CH_3)_4→C_2H_6+Sn(CH_3)_3 (7)CH_3+Sn(CH_3)_4→CH_4+CH_2Sn(CH_3)_3 (8)H+Sn(CH_3)_4→H_2+CH_2Sn(CH_3)_3 エタン、メタンおよび水素の生成量から初期反応として主として反応(3)が起ると考えられる。低圧領域ではエタンは反応(5)により生成するが、圧力増加に伴い反応(6)の寄与が増し、10Torr以上でエタンは反応(6)により生成する。メタンと水素の生成は反応(7)、(8)で説明される。飽和化水素の水銀光増感反応の初期反応はC-H結合切断によるH原子生成であり、今回観察されたようなメチルラジカルの直接生成は極めて珍しいと思われる。反応(3)(6)により生成したラジカルによる金属-金属結合を含むと思われる液状生成物の生成が長時間照射の場合に認められたが、金属スズの生成は本実験では認められなかった。
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