本研究では基本的な芳香属ラジカルの発光状態の性質を、蛍光スペクトル・蛍光寿命を測定することにより明らかにすることを目的とした。 ベンジルおよびパラ置換ベンジルラジカル:トルエン、pーシアノ、pーフルオロ、pーメトキシ、pーカルボキシトルエンをポリビニルアルコールフィルム中にドープし、77KにおいてNd^<3+>:YAGレーザーの第四高調波(266nm)を照射することにより対応するベンジルラジカルを生成させた。フォトセレクション法によりこれらのラジカルの偏光発光スペクトル、偏光励起スペクトルを測定した。またCNDO/SーCI法による分子軌道計算を行って実験結果と対比し、電子励起状態、特に発光状態の対称性を明らかにした。その結果、(1)ベンジル及びパラ置換ベンジルの近紫外領域(320nm付近)に存在する強い電子帯は、いずれの場合も2^2A_2←1^2B_2遷移に帰属されること、(2)可視領域(460nm付近)に見られる弱い電子帯のうち、発光状態に対応する電子帯は、ベンジル、pーフルオロベンジル、pーメトキシベンジルの場合には1^2A_2←1^2B_2遷移であるのに対し、pーシアノ、pーカルボキシベンジルラジカルの場合には2^2B_2←1^2B_2遷移に帰属できること、が明らかになった。この違いは、pー位の置換基がπ電子供与性か吸引性かの性質の差に基づくものと考えられる。また蛍光寿命は、ベンジル、pーフルオロ、pーメトキシ、pーツアノ、pーカルボキシベンジルラジカルに対して、各々1.22、0.36、0.16、0.43、0.30μSと決定された。 2.シクロヘキサジエニルラジカル:ベンゼンのEPA剛性溶媒をγ線照射してシクロヘキサジエニルラジカルを生成させた。その蛍光スペクトルを測定したところ560nm付近に0ー0帯が存在することがわかった。また発光寿命を単一光子計数法により測定したC_6H_7・は3.7ns、C_6D_7は9.7nsと求められた。
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