従来クライゼン転位反応に触媒作用を示さないとされていたアルキルチオアルミニウム試薬が実際には活性であることを見出した。そこで(+)-ネオメンチルチオール(1)とトリエチルアルミニウム(2)を混合して得られるチオアルミニウム試薬(3)を用いて、アキラルな基質のシンナミルジニルエーテル(4)とアリルシロロヘキセニルエーテル(5)のキラルな転位生成物3-フェニル-4-ペンテナール(6)と2-アリルシクロヘキサノン(7)への変換における不斉誘起の可能性を検討した。反応は室温で2-3日でほぼ完結し、6と7がそれぞれ65%と51%で単離された。旋光度より、前者は0.2%eeでS体、後者は6%eeでR体と結論され、小さな不斉誘起しかみられなかった。メンチルチオール(8)は未知化合物で、1のように立体選択的に調製することはできなかったが、メンチルグリニアとイオウの反応により1との1:1混合物として得られた。これを2と反応させキラルルイス酸を調製し、これを用いて4と5の転位反応を検討した。それぞれ0.3%eeでR-6と1%eeでR-7を与えた。従って3の寄与を差引くと、この場合3とは逆方向の不斉誘起を示したことになるがその大きさはこの場合も数%程度にすぎなかった。2の他にクロロアルミニウム類は試みたが、きれいに転位生成物を与えなかった。またジクロロジイソプロポキシチタンと酒石酸ジェチルの混合で生じるキラルルイス酸は、クライゼン転位生成物は低収率でしか与えなかったが、メソ型オキシラン類の開環反応において有意な不斉誘起を示すことを見出した。例えば、シクロヘキセンオキシドからR-トランス-2-クロロシクロヘキサノールが43%eeで得られており、この反応についても更に研究を進める。クライゼン転位反応については、今後遷移金属試薬も含めてより効率的な不斉触媒が見出される可能性が期待される。
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