研究概要 |
安定なメタロセンであるフェロセンの鉄原子と他の遷移金属との間に結合を有する錯体は数少ない。トリチア〔n〕フェロセノファンとPd(BF_4)_2との反応で、Fe-Pd結合を有するカチオン性1:1錯体が得られたので(Chem.Lett.1978,2239)、1.1'一位にS原子の存在する非環式のフェロセン誘導体でも適当な配位子の存在する場合には同ようなFe-Pd間に結合を有する錯体が得られると期待できる。そこで1,1'-ビス(アルキルチオ)フェロセンとPd(BF_4)_2との反応を等モルのトリフェニルホスフィン存在下で行ったところ、予想通りFe-Pd結合を有するカチオン錯体が好収率で得られた。1,1'一位のRS基を他の供与性ヘテロ原子を含む置換基(RSe基およびPh_2P基)に変えても同様な安定な錯体が合成できた。得られた錯体のNMRスペクトルを検討することによって、このカチオン錯体のフェロセンのCP環にはかなりのヘテロフルベン構造の寄与が大きいことが明らかとなった。 ジチアセレナ[n]フェロセノファン(n=7or9)を合成し、Pd(II)およびPt(II)のBF_4塩と反応させたところ、同様にFe-M(M=PdorPt)結合を有する安定な1:1錯体が得られた。このように、これらの研究から安定なメタロセンであるフェロセンの鉄原子が他の遷移金属原子(ここではPd(II)およびPt(II))へ配位したタイプの錯体が一般的に存在することが明らかとなった。 上で得られた錯体との比較の意味で、テトラチア[n]フェロセノファンのPd(II)錯体を合成しその性質を検討した。これらの錯体ではFeとPd(II)との間に弱い相互作用は認められたが、上で述べた錯体のような直接的な相互作用は認められなかった。これを反映して、これらの錯体はfluxionalな性質を示した。
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