研究概要 |
中枢神経の神経伝達物質(カテコールアミン類、インドールアミン類)の生合成機構、その欠損によりもたらされる様々な神経疾患の解明にとって鍵化合物と推定されているキノノイドジヒドロビオプテリンを合成し、その性質を明らかにすることができた。すなわち、(6R)ー5,6,7,8ーテトラヒドロビオプテリン二塩酸塩の高濃度水溶液に、低温で触媒量のヨウ化カリウムと過酸化水素水を添加すると、溶解度が低い(6R)ーキノノイドジヒドロビオプテリン塩酸塩が効率よく、結晶となって分離することを見い出した。同様の酸化法を6ーメチルおよび6,7ージメチルテトラヒドロプテリンに応用して、各々キノノイドジヒドロ体に変換することができた。 これらのキノノイドジヒドロプテリン類は結晶状態では安定であるが、溶液中では極めて不安定であり、液性に依存した種々の分解反応を行うことがわかった。中性溶液中では7,8ージヒドロビオプテリンへの異性化が主として起き、この異性化はリン酸イオンにより促進される。弱酸性溶液中ではテトラヒドロビオプテリンとビオプテリンを与える不同化反応が主に生じ、逆に強塩基性溶液中では逆アルドール型反応による6ー位側鎖に脱離が優先する。ここで得られた知見により、これまで解明されていなかった他のテトラヒドロプテリジンの酸化反応における挙動を明快に説明できるようになった。 キノノイドジヒドロビオプテリンは還元型ニコチンーアデニンジヌクレオチドあるいは水素化ホウ素ナトリウムと反応して立体特異的に(6R)ーテトラヒドロ体を与え、亜硫酸水素イオンとは安定な共役付加物を形成する。しかし、亜硫酸水素イオン以外の求核剤との反応では上記の分解反応が優先し、安定な付加物を形成するには至らなかった。
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