LX線強度比が、X線を発生する原子の化学結合状態によってどのように影響を受けるかについて、種々のニオブおよびモリブデン化合物をターゲットに選んで検討した。X線発生方法としては、電子線励起およびサイクロトロンによる3MeVに加速された陽子線を用いた。X線の測定は、ADPを分光結晶として装置したJohanson型のスペクトロメータを用いて行った。ターゲットとして用いたのは、モリブデン化合物としては、金属、MoO_2、MoO_3、Mo_2C、Mo_2B_5、MoB_2、Mo_2B、MoB、MoSi_2を、ニオブ化合物としては、金属NbO、Nb_2O_5、NbN、NbC、NiB_2、NiB、NiSi_2である。 本研究で対象としたX線は、Lβ_1、Lγ_1およびLη線であり、それぞれLβ┣D21素を基準として、Lγ┣D21┫D2/Lβ┣D21┫D2およびLη/Lβ┣D21┫D2の強度比を求めた。このうちLη/Lβ┣D21┫D2強度比は、いずれも内殻遷移によるものであることから、化学的影響を受けないことを実験的に確かめた上で、化学結合に関与する最外殻からの遷移であるLγ┣D21┫D2のLβ┣D21┫D2に対する強度比を求めた。X線スペクトルは、非線形最小二乗法によってコンピュータ解析により各成分の強度を求めた。 Lγ_1/Lβ_1強度比は、化合物によってわずかではあるが変化する。3MeVの陽子線照射については、モリブデン化合物の場合、MoO_2の5.01×10-2から金属の2.40×10-2、ニオブ化合物ではNbNの2.55×10-2から金属の1.31×10-2まで変化している。励起源が異なることによる強度比の変化は、それほど顕著ではない。このような化学的効果を説明するために分子軌道法によってLγ_1発生に関与するニオブの4d軌道の電子密度を求めた。全ての化合物についての結果はまだ得られていないが、非経験的分子軌道法(GAMESS)により求められた電子密度と強度比との間にはよい相関が得られた。
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