研究概要 |
混合原子価錯体の分子素子への応用を目指して、ビスー2,2'ー(2ーピリジル)ー6,6'ージベンズイミダゾール(BiPBzIH_2)で架橋された一連のRuおよびOs二核錯体〔(bpy)_2M(BiPBzImH_2)M'(bpy又はphen)_2〕^<4+>(I)(M,M'=Ru,Os;bpy=2,2'ービピリジン;phen=1,10ーフェナントロリン)を新規に合成し、その性質を検討したところ、下記のようないくつかの興味ある結果を見い出した。(1)錯体Iは、アセトニトリルー緩衝溶液(1:1V/V中)で架橋部分のイミノ基による2段の酸解離平衡を示す。電気化学的測定から得られた酸化過程は、プロトン移動が電子移動とカップリングした見かけ上一段の二電子過程として観測され、電位ーpH図から、混合原子価M(II)ーM'(III)およびM(III)ーM(III)状態のpKa値が得られた、プロトン移動に電子移動をカップリングさせた安定な二核錯体としては、これがはじめての例であり、生体系での酸化還元反応との関連で興味深い。(2)BiPBzImH_2で架橋された混合原子価二核錯体では架橋部分のBiPBzImH_2がプロトン化された状態では〜1300nm(ε<100)に非常に弱い原子価間遷移(ITband)しか観測されないが、脱プロトン化がおこると、1670nm(ε【approximately equal】2000)にかなり強いITbandが観測されるようになる。すなわち、架橋配位子部分のプロトン平衡により、金属間の相互作用が変えられることを意味しており、プロトン平衡を利用した分子スイッチの可能性を示唆する結果を得た。(3)錯体Iを分子集合体として固体表面上に固定化し、素子への応用を試みた。錯体Iは陽イオン性であることを利用し、グラッシーカーボン電極上に展開した陽イオン交換膜であるナフィオンに集積することができた。この修飾電極は、錯体Iの性質をほとんど保持しており、溶液のpHに対して酸化電位も変化する。このことは、固定化した錯体内での金属間相互作用も変化することを意味しており、pH応答スイッチング素子への応用が期待できる。
|