本年度は、配位子場の角重なり模型を錯体の配位構造およびπ共役系をもつ二座配位子の配位子場の問題に適用して下記の成果を得、角重なり模型の新しい応用の道を開拓した。 1.8配位錯体の幾何学的構造:多くの無機化学の教科書に紹介されている電子対反発模型が、錯体の形をきめる主な要因は原子価殻内の結合および非結合電子対の間の反発であると考えるのに対して、本研究では中心原子と配位子の間の結合が錯体の形に最も重要な影響を及ぼすと考え、角重なり模型を用いて検討した。中心原子の各原子価軌道について配位子軌道との角重なり積分を計算し、これを結合数とした。それが1を超えるときにはその軌道の結合数は1(錯体の種類によっては1以下)とみなして、中心の原子の全軌道についての総和を求め、これを有効結合数とした。有効結合数の最大肢体は、正方柱型(D_<4n>)では7、ねじれ正方柱型(D_<4d>)、三角十二面体型(D_<2d>)では〜7.5となった。有効結合数はその最大値の付近では配位構造の変化に対してあまり敏感でなく、実在の錯体は(有効結合数)【greater than or similar】7.4の領域になって、同時に電子対反発最小の条件も近似的に満たしている 2.π共役系を持つ対称二座配位子の配位子場の記述(C.E.Schafferと共同研究):この種の配位子では配位原子間にπ相互作用があるので角重なり模型をそのまま適用することができず、新しい項の導入が必要であるといわれていたが、原子動径パラメ-タ-の代わりに分子動径パラメ-タ-を用いることによって、従来通りの方法で取扱いうることを示した。 なおこれらの研究の遂行にあたっては、本科学研究費補助金で購入したパ-ソナルコンピュ-タを用いて計算と作図を行った。
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