キイロショウジョウバエ自然集団にみられる殆どの突然変異は動く遺伝子によって惹起されている。しかし我々が見出したG6PD遺伝子発現を正に調節するような動く遺伝子は他に例がない。従ってこの構造と機能を解析することは極めて有意義である。本研究ではまず突然変異系統のゲノムDNAライブラリーを作製し、これよりG6PD遺伝子領域に挿入した動く遺伝子をクローン化し、その構造を決定すると共に、何故この動く遺伝子がG6PD遺伝子の発現を促進させるかその作用機序について検討を行った。その結果次のことが判明した。1.挿入因子は二種の欠損型P因子が各々二つ宛連らなったものである。2.挿入位置はG6PD遺伝子の転写開始点上流29塩基にあるTTTGTTTGの両側である。3.この挿入によってmRNA量が増加するが、転写開始点、転写終了点に変化はない。4.これらのことは他の同様の突然変異系統二つでも同じである。5.転写促進の主たる要因は4つのP因子のうち内部に存在する0.6Kbの因子である。6.この因子では完全型P因子の206番から2503番の塩基が欠損している。7.この欠損により切断点前後に不完全ながら26塩基よりなるパリンドローム構造が出来る。8.また、DNase高感受性が生ずる。9.この領域に結合する核蛋白質が存在するが、これは完全型P因子や他の欠損型P因子には結合しない。10.P因子挿入点と転写開始点との間には約20塩基よりなるGCに富んだ配列があり、これは脊椎動物のハウスキーピング遺伝子にみられる配列と極めて高い相同性を有する。以上のことから、欠損型P因子の挿入は調節核蛋白の結合を介して転写効率の促進を惹起すものと推論される。目下、この欠損型P因子が他の遺伝子に対しても転写促進作用を有するか否かを調査している。
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