研究概要 |
コムギ・エギロプスの葉緑体ゲノムの変異機構を特徴づけるため、変異が集中しているrbcL-petA遺伝子付近約4.5kbpに異なったDNA構造をもつ3種Triticum aestivum,Aegilops crassa,Ae.squarrosa(T.aestivumを基準にするとAe.crassaは約800bpの挿入、Ae.squarrosaは約300bpの欠失をもつ)をpUC119のHindIII-PsiI siteにクローニングした。Bami HI-KpnI消化後、ExoIII-Mung beanmicleaseによるDeletion mutantsを作成するKilo base sequencing法により塩基配列を決定した。この部分を全塩基配列が決定しているタバコ・ゼニゴケのcpDNAと比較すると、コムギではタバコのOpen reading frameの1つ(ORF512)が見当たらず、代わりに本来逆位反復配列内に存在するリボゾームタンパク質遺伝子(rpl23)が位置していた。I.aestivum,Ae.squarrosaの葉緑体ゲノムの欠失をおこした部位とAe.crassaのそれに相当する部位にそれぞれcATTTTTTT(A sequenceと呼ぶ)、ATTAT(S sequence)という共通配列が存在した。Ae.crassaのcpDNAにはA sequence,S sequenceとも2セット反復配列を形成して存在する。このことはAe crassa型の葉緑体ゲノム(T.monococcum,Ae bicornis,Ae.sharonensis等が含まれる)の共通配列内で分子内組換えを起こして、それぞれの欠失が生じてきたことを示している。Ae.crassaの2つのA sequence内の分子内組換えによってT.aestivumの葉緑体ゲノムが、S sequence間の分子内組換えによってAe.squarrosaの葉緑体ゲノムが生じてきた。従ってどちらの構造変異も一つの分子内組換えで説明できる。これは葉緑体ゲノムの構造変異の機構を提唱したものである。この機構の一般性を証明するために来年度この変異集中領域に関して上記3種とは異なるDNA構造を有する2種Ae.caudata,Ae.ovataの葉緑体DNAの塩基配列を今年度の方法に従って決定する予定である。
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