研究概要 |
当初予定していたコムギ・エギロプス属植物の3種(Triticum aestivum,Ae-gilaps crassa,Ae squaradsa)の葉緑体ゲノムの変異集中領域約4.5kbpのDNA segucncingを完了させ、この領域のDNA構造を詳細に解析した。タバコの相当する領域と比較することにより、新たな葉緑体ゲノムでの遺伝子再配列を発見した。これは遺伝子の転位であるが、塩基配列の比較からこの転位は短い(4〜12塩基)反復配列を介した非正統的組み換えによるものであると結論づけた。また、コムギ・エギロプス3種の塩基配列を相互に比較して、それぞれのゲノムでみられた欠失も短い(5〜9塩基)反復配列を介した分子内組み換えによるものであると結論づけた。これらのDNA再編成が特殊な2次構造と関連しているのではないとの作業仮設をたて、変異部位の2次構造を解析した。すると、遺伝子が非相同的に転位して挿入された領域、欠失が生じた共通配列を含む領域に共にtRNA類似の2次構造がみられ、ゲノムの再編成が特殊なDNAの2次構造と関連して生ずることが示唆された。この領域全体は、AT-richであり、哺乳動物ゲノム中に散在してみられる反復配列と構造上の共通点がみられた。コムギ属の葉緑体ゲノムの変異集中領域と相同な配列がミトコンドリア、核ゲノムでも再編成した形で検出された。特に細胞質ゲノムである葉緑体・ミトコンドリア間でDNA断片のやりとりをおこなっていることが知られているが、他のイネ科植物では、ミトコンドリアゲノム内に相同配列が検出される変異集中領域に隣接したrbcL(リブロ-ス=リン酸カルボキシラ-ゼ大サブユニット)遺伝子、rpl23'(リボゾ-ムタンパク質L23)偽遺伝子がコムギミトコンドリアゲノム内には検出されず、細胞質ゲノム間のやりとりの不安定性が示された。
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