本邦に産する4種のメクラウナギ属、ムラサキヌタウナギ(Eptatretus Okinospanus)、ヌタウナギ(E bargeri)、クロメクラウナギ(Paramyxine atami)、メクラウナギ(Myxine garmani)において生殖細胞系(精原細胞、精母細胞)と体細胞系(血液、肝臓、腎臓、鰓の細胞)の染色体数を観察したところ、生殖細胞系はそれぞれ54、52、48、16、体細胞系はそれぞれ34、36、34、14で、その差が20、16、14、2であり、どの種においても生殖細胞系の方が染色体数が明らかに多かった。生殖細胞と体細胞の比較DNA量を測定したところ、体細胞系の生殖細胞系に対するDNA量はそれぞれ54.6%(ムラサキのタイプA)、44.9%(ムラサキのタイプB)、79.1%(ヌタ)、60.0%(クロ)、70.2%(メクラ)であった。生殖細胞系と体細胞系の核板をそれぞれCバンド処理をしたところ、生殖細胞系の核板においてはどの種においてもCバンド陽性クロマチンが多量に存在することが観察されている。一方、メクラを除く他の3種の体細胞にCバンド陽性クロマチンが存在せず、メクラの体細胞においても各染色体の端部に少量のCバンド陽性クロマチンが存在するに過ぎず、生殖細胞に比べてその量は極めて少ないことが観察された。これらの結果は明らかに本邦産の4種のメクラウナギ全てにおいて発生の初期の体細胞の分化時にCバンド陽性クロマチンを含むいくつかの染色体が放出されていることを示している。東太平洋に産するメクラウナギ属のE.stoutiiにおいても、生殖細胞の染色体数54、体細胞のそれは34であり、同様に染色体放出を行なっていることが明らかになった。この種についての放出の概要は現在検討中である。分子生物学的にはムラサキヌタウナギの生殖細胞のBam HIで切ったDNA断片を泳動したパターンには体細胞のそれに見られないバンド(120塩基対程度)があり、この部分が放出されていることが判明している。
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