RNAウイルス遺伝子の分子進化学的研究

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 63540510
• 研究機関: 国立遺伝学研究所
• 研究代表者: 五條堀 孝 国立遺伝学研究所, 集団遺伝研究系, 助教授 (50162136)
• 研究分担者: 森山 悦子 国立遺伝学研究所, 集団遺伝研究系, 助手 (20210198) ; 宝来 聰 国立遺伝学研究所, 総合遺伝研究系, 助手 (40126157)
• キーワード: RNAウイルス / 分子進化 / 塩基置換速度 / レトロウイルス / 成人T細胞白血病ウイルス / ヒトB型肝炎ウイルス

研究概要

レトロウイルス(オンコウイスル,エイズウイルス等)のゲノム遺伝子が真核生物の核ゲノム遺伝子より百万倍速い進化速度を持つことは、前年度までの本研究の成果として五條堀らによって明らかにされてきたが、本年度はさらに、「RNAウイルス遺伝子がDNAゲノム遺伝子より約百万倍速い進化速度を持つ」ことの一般性の確立、及びこれを応用した各種ウイルスの起源と進化の過程の解明、を目的として以下に示す実績をあげてきた。
レトロウイルスのゲノム遺伝子の進化速度が高い理由の一つとして、レトロウイルス特有の逆転写酵素の存在があげられる。これを確認するため、DNAウイルスでありながら逆転写酵素を持つことが知られているヒトB型肝炎ウイルス(HBV)において、進化速度(塩基置換速度)の推定を行った。その結果、HBVのグル-プは10^<-5>/サイト/年のオ-ダ-の進化速度を持ち、これは真核生物核ゲノム遺伝子の進化速度(10^<-9>のオ-ダ-)とレトロウイルスの進化速度(10^<-3>のオ-ダ-)の中間の値であることが示された。またさらに、この進化速度をもとに、ヒト、ジリス、アヒル等を宿主とするウイルスの分岐時間を計算した結果、HBVのグル-プは進化の過程で宿主間での水平感染が起こっている可能性が示唆された。(五條堀、森山)
レトロウイルスの一種である成人T細胞白血病ウイルス(HTLVーI/II)のゲノム遺伝子の塩基配列を用いて、進化速度の推定を試みた。その結果、やはり真核生物核ゲノム遺伝子よりは高いが、典型的なRNAウイルス遺伝子よりはかなり低いことが示された。これは、これらのウイルスが宿主細胞のDNAゲノム中に長期間にわたり組み込まれるためと考えられる。一方、HTLVーI/IIグル-プに対して構築された分子系統樹より、このウイルスグル-プの進化の過程でも種間感染が起こった可能性が示唆された。(五條堀、宝来)

研究成果

• [文献書誌] Shimizu,N.: "Patterns of nucleatide substitutions and implication for the immunological diversity of human imunodeficiency virus" FEBS letters. 250. 591-595 (1989)
• [文献書誌] Orits,E.: "Hostーindependent evolution and a genetic classification of the hepadnavirus family based on nuclestide sequence." Proc.Natl.Acad.Sci,U.S.A. 89. 7059-7062 (1989)
• [文献書誌] Tsujimoto,H.: "Sequence of a novel simian immunodeficiency virus from a wildーcaught Africa mandrill." Nature. 341. 539-541 (1989)
• [文献書誌] Gojobori,T.: "Evolutionary origin of juman and simian immunodeficiency viruses." Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.
• [文献書誌] Ina,Y.: "Molecular evolution of human Tーcell leukemia virus." J.Mol.Evol.
• [文献書誌] Gojobori,T.: "Population Biology of Genes and Molecules(Eds,J.F.Crow and N.Takahata)" BaifuーKan Japan, 323-340 (1990)
• [文献書誌] Gojobori,T.: "Methods in Enzymology(Ed.R.F.Doolittle)" Academic Press,Inc.Orlands,Florida,