研究概要 |
日本産淡水カジカ属5種の生活史進化の過程と生態的要因を推定するために、アイソザイム遺伝子をマーカーにした遺伝学的解析と生活史についての種間・固体群間の比較研究を行い、以下のことが解明された。 1)これら5種は遺伝学的解析によって、シベリア系群(ハナカジカ・エゾハナカジカ・カジカ)と朝鮮系群(カンキョウカジカ・ウツセミカジカ)の2類縁群に大別される。このことは、各種の生活史進化の道筋がその属する系群内で独自に進んだことを示唆する。2)両側回遊型のエゾハナカジカと河川陸封型のハナカジカは、同一河川に共存する場合にも遺伝的交流をまったく欠くことから、厳密な生殖的隔離があると判別された(Andon & Goto,1988)この結果は両種が別種であるとする見解(Goto,1980,1983)を支持する。3)北海道内におけるエゾハナカジカとハナカジカの遺伝的類縁関係を推定した結果、道南部の2種の個体群は極めて近縁な関係(遺伝的距離D=0.022)にあるのに対して、ハナカジカの道南部の個体群と中部・東部の個体群との間には著しい遺伝的分化(D=0.175)が見出された。この結果は、これまで1種とされてきたハナカジカに別種と分類しうる2集団が存在することを示唆する。また、両側回遊型のエゾハナカジカから河川陸封型のハナカジカか集団への分化が多所的・平行的に起こったことを示唆する。それ故、多所的・平行的種分化節を提唱すると共に、河川陸封型の生活史は両側回遊型の生活史から多所的・異時的に進化したと考えられる(Goto & Andoh,in press)4)両側回遊型のカンキョウカジカには河川の流程に沿った生活史変異が認められるが、その変異は雄に顕著であるのに対して(Goto,1987a)雌では極めて小さい(Goto,in press) この雌雄差は、本種が1夫多妻の婚姻システムをもち、大型の雄ほどより多数の雌と番うという繁殖戦略(Goto 1987d)と関連して由来したと考えられる。
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