オニビシが富栄養化の進んだ水域で群落を形成し、維持していく機構を、その種子個体群の生態と動態から実態を把握し、明らかにしようとした。研究調査と実験材料の採集は主として千葉県・印旛沼でおこなった。埋土種子個体群の種子湿重は正規分布をしめし、その平均値は7.3gで、わが国で見られるヒシ科植物の中でも特に大形である。湖底の散布密度は66.7-80.8/m^2であった。植物は一年生で、果実は秋に生産されて水底に落ちる。湖底の自然条件下で越冬した生きている種子は、春に水温が10℃をこえる頃から発芽を開始して全体の60%が初年に、翌年には92%が、2年後には全数が発芽した。印旛沼湖底の冬季の最低温度が約7℃であったこと、10〜18℃の範囲に5段階の温度設定をして種子発芽実験をした結果、発芽に必要な冷温と発芽促進の閾値は7〜10℃であると確認した。なお10〜18℃の範囲で、発芽に必要な日数は水温が高いほど短期間に(50〜15日)、またいずれも100%発芽した。 植物体に付着した状態のオニビシ葉の光合成速度を野外(湖)で測定し、若葉および成葉の光飽和における光合成速度が25〜30mgCO_2/dm^2/hrと高い値であることを知った。ロゼット葉は、群落形成時においても、葉は相互被陰の状態をつくらない。葉は陽葉で寿命が短く、つねに高い光合成速度が実現できる葉令構成をつくっている。これらのことは大形種子の高い生産性を可能にするであろう。その他、上記したように高い発芽効率がみられたことなど、いずれも群落維持に対して寄与していると考察した。
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