オニビシが富栄養化の進んだ水域で群落を形成し、維持していく機構を、オニビシ個体群の物質生産生態学的見地から明らかにしようとした。研究調査と実験材料の採集は主として千葉県・印旛沼でおこなった。 1 種子がもつ戦略 種子の平均湿重は年により変わらず、7gで最大湿重は12gに達し、わが国の水生植物の種子のなかでは極めて大型のでん粉種子である。したがって、発芽した幼植物は大型で、浮葉を透明度の小さい水域の水面に展開することができる。種子発芽の経済率は0.47であった。日照が1/2に減少した場合に、生産される種子は大きさ(重さ)をかえず、個数が減少した。このとき、オニビシは低密度個体群を用意し、旺盛な分枝能力で浮葉密度を高くして、平均的な群落が維持された。透明度の小さい水域で幼植物が浮葉を生産できる最大水深は、約2.2mと推定した。 2 ロゼット葉がもつ戦略 LAIは2以下のロゼット葉群を形成した。このため、新葉はつねに恵まれた光条件下におかれた。新葉の光合成速度は成葉のそれに匹敵して高く、1ロゼットあたり、1日に1葉が新生し、葉の寿命は約25日で更新速度が高く、現存量が小さいにもかかわらず高い物質生産が維持された。このことは種子生産に関連するであろう。 3 個体と群落の再生産過程でみられる戦略 母植物から離散するときの果実の比重に差異がみられ、その場に沈み埋土種子集団が用意される場合と、異なる地点に浮遊し、移動した後に沈降する2型がみられた。春に水温が10℃をこえる頃、全体の60%が初年に、翌年には92%が発芽し、絶えず埋土種子集団が用意される発芽がみられた。
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