3つの分類群に属する昆虫を用いて精子競争のメカニズムを研究し、その配偶システムとの関連を検討した。 1.カワトンボのオスは交尾の際、メスの精子貯蔵器官からライバルオスの精子を掻き出し、その後に自分の精子を入れる(精子置換)。本研究において、オスは交尾戦術によって、精子置換の程度を調節していることを発見した。オスはふつう山間部の渓流(メスの産卵場所)に縄ばりをもち、そこに飛来するメスと交尾を行う。これを縄ばりオスとよぶがこの他にも、樹上などで摂食中のメスをねらって交尾しようとするオポチュニスト、もうひとつは縄ばりの近くに潜み、縄ばりオスの目を盗んで産卵中のメスと交尾をしようとするスニ-カ-がいる。精子置換率を比較すると、スニ-カ-が最も低く、オポチュニストが最も高いことが分かった。 2.ウリミバエの精子優先度の決定メカニズムを研究した。2匹のオスが連続して1匹のメスと交尾したとき、精子優先度は交尾の順序と関係なく、オスがメスに渡した精子の相対量が決定要因となることが明らかになった。ところが交尾間隔を長くすると精子優先度が高くなることも分かった。この理由を明らかにするために、メスの体内における精子の寿命を測定した。その結果、交尾直後にメスは約5000の精子を持っているが、日令とともに指数間数的に減少し、12日後には約半数になることがわかった。 3.アワヨトウの精包サイズを相変異に関連づけて研究した。鱗翅類では交尾に際し、オスがメスに精包を渡すが、群生相のオスは孤独相のオスにくらべて大きな精包をメスに渡すことが分かった。また、大きな精包を渡されたメスは再交尾までの時間が長くなることも実験的に明らかになった。オス間の配偶者獲得競争が激しい状況(群生相の生じる高密度条件下)ではオスはメスの再交尾を防ぐために大きな精包を生産すると考えられる。
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