広島県江田島山火跡地において、隣接する、ほぼ同齢の自然再生のハギ・コナラ群落(A区)と人為植栽したクロマツ群落(B区)で1988年8月から一降雨毎に、林外雨量、林内雨量、樹幹流量、土壌浸透水量を測定するとともに、これらに含まれる塩類(N、P、K、Na、Mg、Ca)濃度を分析した。さらに、ステンレススチールネットを上部に取り付けた林外雨受けでエアロゾルによる塩類インプットを推定した。また、大型ビニールで再生樹木をおおった手法でエアロゾルによる塩類供給量の推定の試みも行った。調査は現在進行中で断定的なことは言えないが、以下のことが判明した。まず、A区とB区では雨水の遮断量に明確な差異がみられた。特に、夏緑樹の葉が展開する5〜11月期はA区でB区より、遮断量が約10%(降水量比)大きかった。しかし、雨水中の塩類濃度(K、Na、N)は2〜3倍もA区で高いことから、結局林床に供給される塩類総量はA区ではるかに大であった。しかし、Pについては、林床に到達する雨水中の濃度は降水より低下しており、この傾向はB区よりA区で顕著であった。この現象は再生植生によるPの吸着、吸収によるものと思われた。ステンレススチールでのエアゾロ捕捉から、雨水の2〜10倍近いインプットがエアロゾルの形態で林地に供給されていることがわかった。広葉樹林のA区で、この点についてもB区より優っていた。両区で優占している植物体中の塩類濃度を分析したところ、A区はB区より3〜6倍高い値を示した。乾物現存量には両者の間に大きな差がないことから、自然再生植物群落において多量の塩類が蓄積していることも判明した。以上から、山火跡地の自然再生植物群落が、多量の塩類を蓄積するとともに、多量の塩類を系内で循環させている現象の一端を明らかにすることができた。今後、研究を継続させることによって、より一層定量的解析を進めたい。
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